なぜ「越境する力」が組織と個人に必要なのか?90分腹落ちセミナー”「越境する力」を組織で育む”にみる、「越境する力」の魅力

トピック&テーマ


2021年9月16日、NOKIOOはオンラインにて「90分腹落ちセミナー「越境する力」を組織で育む~事例に学ぶこれからの人材育成~」を開催しました。 越境学習とは、所属している企業やチームを離れ、外部の環境で学び、そこで得た気づきや知見をホームで活かすことです。経済産業省は「人生100年時代」における人材育成の一環として、越境体験(越境学習)を推奨しています。組織・個人の双方にメリットがある越境学習について、個人の「越境する力」を組織でどのように育めばよいか、越境の魅力をご紹介いたします。

目次

  1. なぜ今、「越境する力」が組織と個人に必要なのか?
  2. 様々な越境の形
  3. 越境すると起こること
  4. 「越境する力」を組織開発に繋げる方法とは
  5. 組織でどう育む?「越境する力」
  6. まとめ
  7. 研修に関するお問い合わせ
  8. 参考書籍について

小田木朝子(以下、小田木):本日のテーマ、“「越境する力」を組織で育む”では、越境学習とは何か、なぜ必要なのか、そしてどんな組織課題に対して有効なのかを紐解いていきます。
まずは、越境する力についての景色合わせです。

なぜ今、「越境する力」が組織と個人に必要なのか?

小田木:本日のセミナーにおける「越境」の定義をご紹介します。

「越境」とは


小田木:色々な定義があるとは思いますが、本日のセミナーにおける定義を簡便化しています。
「越境=境を超える」という意味です。ホームから境界線を越えてアウェイに出る、かつこのホームとアウェイを行き来する。これを総称して越境と呼んでいます。この境目をどこに置くかはいろんな定義ができますので、柔軟に設計していきましょう。とにかく、このボーダーを越えて繋がり、ホームとアウェイを行き来する。かつ、既存の問題や課題を解決することや、新しい価値を生み出すことを「越境」としています。

沢渡あまね(以下、沢渡):もう少し背景の意味づけをしてみましょう。
VUCAの時代と言われています。複雑性や、その技術革新が進んでいくような時代において、過去に答えがない。組織の中に答えを求めにくい。今までの勝ちパターンが通用しにくくなってきている時代になるので、自ずと組織や立場を超えて、自分たちなりに問題を提起し、自分たちなりに向き合い方を決め、自分たちなりの答えを出していかないと、組織も、そこで働く個人も成長しません。成長していないどころか既存の事業の維持も難しくなりつつある時代ということです。そんな時代だからこそ、組織を超えて繋がっていく力や繋がって自分たちなりの答えを出していく力を見つけていくために、越境スキルが必要であるということですね。

小田木:「既存の問題・課題を解決すること」の“既存”とは“誰の既存”でしょうか。

沢渡:二つ考えられます。一つは、組織の問題・課題です。例えば少子高齢化が問題になっており、組織は労働力という観点や、業務を若い世代に引き継いでいくことが課題となっていますよね。これは組織が向き合っているリアルです。もう一つは、個人の問題・課題です。子育てをしながらどうやって仕事と両立をさせていくのか、終身雇用制の崩壊と言われている中で、どのように定年後も含めたキャリアを形成していくのか。これは間違いなく個人における既存の問題・課題です。

小田木:既存の方法、既存の問題解決方法、今まで向き合ってきたテーマを変え、その向き合い方や問題解決の方法を変えていくために、なぜ「越境」が必要なのでしょうか。

越境が求められる背景(環境変化と、組織マネジメントの変化)
出典:『バリューサイクル・マネジメント』(技術評論社)


沢渡:書籍「バリューサイクル・マネジメント」でも説明をしているので、各論は書籍をじっくり読んでいただきたいです。
なぜ「越境」が必要なのか。まず、マネジメントスタイルを、統制型(ピラミッド型)から、オープン型に変えていく必要がでてきたということです。組織の中に答えを求めにくい、過去から答えを見いだせない時代なので、組織や個人がオープンに繋がり、壁を超えて解決していくという方法に変えていかなければなりません。学習スタイルも同様です。組織内に蓄積された経験学習だけでは育成がままならない。組織の壁や立場を越えてオープンに繋がり、答えを出していく方法に、部分的にでも変えていかなければいけません。

小田木:変化が早く、過去に答えが無い、組織の中に正解が無いので、学習スタイルも組織の中にある経験や知識を教えていく学習から、組織の外に出て様々な知識や経験をしながら学び持ち帰る、という方法に変えていこう、ということですね。
ここまでは抽象的な話をしてきました。では、具体的に「越境」とは何かを紐解きましょう。

様々な越境の形

様々な越境の形
出典:沢渡あまねマネジメントクラブ


沢渡:交流範囲から「取り込む」「飛び込む」という図です。左上の“中途採用”という形は、社外の人材を社内に取り込む。左下の“社内副業”は、別の部署に飛び込む。右上の“フリーランス”は、社員ではない人材を社外から組織の中に取り込む。右下の“社外研修”では、社外に飛び込む。このような図です。 学習の話をしてみましょう。越境学習の効果を最大化するためには、大企業の人材がベンチャー企業に一定期間出向するというようなことが有効と言われます。そこまでは難しくとも、組織内において社内副業をし、繋がってコミュニケーションをする。そこに小さな違和感を感じながら、葛藤し乗り越えていくという経験はあるに越したことはありません。

小田木:「越境」というと、社外に出る、出向や人材交流するといったものを想起しがちです。すぐにできることできないことがある中で、難しいことだけを「越境」と定義せずともよい、ということですね。 着眼点として、社内・社外に取り込む、飛び込む。こういったマッピングをしてみると、身近なところに越境や越境に近い経験、体験のできる機会がありそうです。

沢渡:経済産業省が越境学習を推奨しています。実際にプロジェクトを進めていくと、企業間留学・出向型の越境をすることがあります。特定の選抜社員だけが体験できる学習ではなく、越境学習を身近な機会として捉え、引き寄せていきましょう。

小田木:越境の定義を広く設定し、小さいものから大きいものまで、様々な越境の形がイメージできます。越境をすることで何が起こるのか、ここを紐解いていきましょう。

越境すると起こること

小田木:ホームにいる時、そして越境し外に出ると起こることを整理してみましょう。越境して経験することと越境しないことの対比です。越境すると、葛藤を抱えることになります。

越境すると(アウェイに出ると)起こること

小田木:ホームにいるときは、

  • 目標が組織の中で決まって降りてくる
  • 短期的な成果に慣れている
  • 自分が決めずとも、誰かが決めて言った
  • 多少曖昧でも、ことが進みやすい
  • 発信せずとも理解された
  • 同質性が高いので、違和感を感じない
  • 独自ルールで仕事をしていた

このような状態が当たり前ではないでしょうか。
アウェイに出ると、今まで当然であったことでない壁にぶつかるため葛藤を抱え、壁を超えるために内省をすることになるというサイクルです。

沢渡:大企業の社員がベンチャー企業に出向することによって、カルチャーの違いにより葛藤をすることは、すごく大切な経験です。例えば、今まで10〜20年スパンでのオペレーションをやっていた人が、突然ベンチャー企業で新しいビジネスを作ることができるでしょうか?ビジネスを考えろと言った瞬間に、まず自分から方法を決めていかなければならないし、自分から周囲を巻き込む必要が出てきます。所属企業ではメールと口頭で2ヶ月かけて進めていたものから、チャットで素早くアイディア出しをし、素早く提案して、素早く決裁を通して、トライ&エラーをし、スピード感を持って業務にあたる。様々なカルチャーギャップやコミュニケーションのスピードでも葛藤が生まれそうです。今までの方法が通用しないままでも、その状況に向き合うことで壁を超えるという手応えを持てるのではないでしょうか。

小田木:できると思っていたけれども、慣れた環境の中で実現できていて、外に出るとまだまだ出来ないことがある。そういった自分を一旦受け入れるという経験できるということでしょうか。

沢渡:はい、そのとおりです。越境しっぱなしだと意味がありません。
きちんと受け入れて、越境人材を組織のリフレッシュやアップデートに繋げていくということは、カルチャーの違いによる葛藤に向き合うということになります。つまり、ここは自社の良い点、ここは自社の問題だと、所属企業に向き合い内省をするという事です。この内省や葛藤を、越境をした当事者だけに抱え込ませるのは良くない。組織も、越境当事者と向き合い、葛藤を乗り越えるサポートをしていく必要があります。そのためのスキルシフト、マインドシフトも大変重要です。

「越境する力」を組織開発に繋げる方法とは

小田木:そもそも「越境する力」とはどういったものでしょうか。
越境し変化するために必要な力、とも解釈できますし、越境し葛藤を乗り越えた先に手に入る力とも解釈できます。

「越境する力」とは

小田木:越境する個人に必要なもの、もしくは個人が手に入るものはマインドセットとスキルです。
マインドセットとは、異質性(違い)をストレスにせず、受け入れ、機会に変える。違うものを取り入れながら成長をするということです。
スキルとは、様々な考えやバックボーンを持った人と問題の景色合わせをし合意形成をしていくファシリテーションの力などが上げられます。
越境を受け入れる・送り出す企業に必要なもの、もしくは企業が手に入るものは、組織風土ではないでしょうか。異なる部署同士で越境しようとしたら、ITツールが必要でしょう。部分的にでも、統制型(ピラミッド型)ではなくオープン型のマネジメントスタイルに変えていく必要もあるかもしれません。 越境する個人と、越境を受け入れる・送り出す企業それぞれが、この「越境する力」を身につけると、越境する人材を組織で活かす、越境するマインドセットを持った人材を組織の中に増やしていくことができるのではないでしょうか。

沢渡:デジタルトランスフォーメーション、コーポレートトランスフォーメーション、組織変革などが叫ばれます。そういった変革の時代を生き抜き、越境を武器に変革していくためには、3つのシフトが必要です。
一つめは、「マインドシフト」。違いを受け入れ内省していく力です。二つめは、「スキルシフト」。対話力やファシリテーション力です。 三つめは、「マネジメントシフト」。マネジメントの仕方を変え、組織とそこで働く個人の成長を促進させる力です。

組織でどう育む?「越境する力」

小田木:越境する力を組織でどう育むのか、越境するために必要なスキルは何かをお伝えしてきました。ここからは、どうしたら越境できる力を持った人材を組織の中に増やしていけるのか、考えていきましょう。

「越境する力」を組織で育むための着眼点

「越境する力」を組織で育むための着眼点

小田木:一つは“組織の外で”育む方法です。ボーダーを越えて、行き来するという経験を持ち、育んでいきます。もう一つは“組織の中”で育む方法です。組織内という小さなボーダーを越えながら経験し、力をつけることや、越境を活かすためのスキルを人材育成の中で身に付け、磨きながら越境できる人材を増やしていきます。 今回は“組織の外”で育む「越境する力」について深堀りをしていきましょう。

“組織の外”で育む「越境する力」

小田木:“ボーダーを越えて“組織の外”で育むとはどういうことでしょうか。

沢渡:大企業の人材がベンチャー企業に出向する、このような方法を取り入れることのできる企業はごく一部ではないでしょうか。身近なところから考えると、越境を取り入れる大きなチャンスは、組織の“過渡期”です。例えば、経営者が交代するタイミングや、新年度に切り替わるタイミングなどが上げられます。何気ない日常の中にも、越境を取り入れすタイミングが存在するということですね。着目したいのは、育児休暇から復帰するなど、ライフステージが変わるタイミングです。

小田木:ライフステージの変化は個人にまつわることのように感じますが、なぜ組織におけるチャンスなのでしょうか?

沢渡:ライフイベントは様々なものがありますが、今組織の中で注目されているものは男性育休ではありませんか。育休というのは、組織が向き合わなくてはならない問題です。

“出産〜育休”は、「越境する力」をはぐくむ絶好の好機

小田木:ライフステージが変化するタイミングがチャンスであると捉えている企業はまだまだ少ないのではないでしょうか。かつ、ライフステージが変化するタイミングの中で、“出産〜育休”というイベントは、越境する力を育む絶好の好機です。

”出産〜育休”は、越境する力を育む絶好の好機


小田木:変化が早く、組織の中にも答えがない、一緒に働くメンバーも多様性を極めるなど、職場や組織を取り巻く様々な環境があります。一方で、出産というライフイベントを、当事者及びパートナーが迎えると、組織と同じことが個人や家庭の中で起きているのではないでしょうか。そのため、組織・個人双方に、変動要素が多く、決めることが難しい。しかも、誰も答えと持っておらず、正解もない状況が訪れていると言えます。
組織における変化はこれまで述べてきたとおりですが、個人においても、産休・育休というタイミングは、職場を離れるというリアルがあります。1年、半年であったとしても、スキルや経験の陳腐化が早く、復職し仕事ができるだろうかといった不安を抱えるタイミングです。新しく家族が増えることで、家庭の中でも父・母という役割が生まれます。ビジネスパーソンとしての自分だけではなくなるという点から、個人の中でも多様性が生まれるし、変動要素が多く、決めることが難しい。しかも、誰も答えも持っていないという事象が当てはまると言えます。 こういった好機が、まさしく越境を仕掛ける絶好のチャンスで、越境することによって働き方や仕事の方法、成果の出し方をアップデートしていくチャンスではないでしょうか。

学ぶコンテンツと学び方を変えて「越境する力」を育む

小田木:ここまでは、“組織の外”で育むという観点から“育休〜出産”というライフステージの変化に合わせた「越境する力」の育み方をお話してきました。 次に、学習スタイルを変えることで「越境する力」を育むという観点をご紹介いたします。

学ぶコンテンツを変えて「越境する力」を育む


小田木:例えば、DXをテーマに置き、成果をあげていく組織をアップデートするとした場合、様々なレイヤーに分かれたスキルが求められるのではないでしょうか。
より発展的なテクニカルスキル、デジタルワークで成果を出す実践スキル、基礎的なビジネススキルやマインドセットなどもあります。 今、組織が向かおうとしている方向性や取り組んでいる課題テーマによって、様々なスキルを定義していく中に、越境して手に入るスキル、もしくは越境して成果を出すために必要なスキルがあるのではないでしょうか。
また、学び方を変えて「越境する力」をはぐくむこともできます。 越境型の学び方は、従来の知識のインプットや情報を正確に伝えるという情報伝達を重要視してきた学び方から、経験から学び、対話と内省によって学ぶスタイルへシフトさせるものです。

学び方を変えて「越境する力」を育む


小田木:正解を理解するというスタイルから、納得解を編集するスタイルへの変化が加速していると言えます。越境型の学び方では、この学び方の中に、あえて揺らぎや葛藤を残します。

まとめ

沢渡:VUCAの時代ですが、正解を求める方法だけの教育の中で育ってしまった私たちは、自ら答えを出す経験に対し基礎体力がありません。越境学習は、ゆらぎや葛藤に強い人材を育てる、人材育成の手法とも言えます。

小田木:受動的に自立型人材とも言われますが、自ら意味づけをし、主体的に学びに参加していく。これが越境学習ですね。どちらが良いか、悪いかというわけではなく、従来の学び方と越境型の学び方を横断し行き来する中で、効果を発揮していけるとも言えるのではないでしょうか。

沢渡:出向、留学、制度変更など、大きな打ち手だけが「越境」ではありません。今ある個人や組織の日常の中に越境体験を生み出し、人材育成を進めていきましょう。


沢渡あまね

<講師> 沢渡 あまね
あまねキャリア株式会社 代表取締役CEO/なないろのはな 取締役/株式会社NOKIOO 顧問

日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。情報システム部門、ネットワークソリューション事業部門、広報部門などを経験。現在は企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・アドバイザー・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネージャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。これまで300を超える企業・自治体・官公庁で、働き方改革、マネジメント変革、組織改革の支援および経営層・管理職・中堅人材の育成も行う。これまで指導した受講生は4,000名以上。 著書「バリューサイクル・マネジメント」「職場の問題地図」「マネージャーの問題地図」「職場の科学」ほか多数。


株式会社NOKIOO 取締役 小田木朝子

<講師> 小田木 朝子
株式会社NOKIOO 取締役/経営学修士

ウェブマーケティングの法人営業などを経て、NOKIOO創業メンバーとして参画。教育研修事業担当役員。2011年、中小企業診断士資格取得。2013年、自身の経験を活かし女性の社会参画支援事業『ON-MOプロジェクト』を立ち上げ、会員6,000名を超えるネットワークを育成。2016年12月『一般社団法人 育勉普及協会』を設立。2020年、オンライン教育サービス『育休スクラ』を立ち上げ、経験学習による人材開発・オンラインを活用したキャリア開発とアクティブラーニングを法人・個人向けに提供。グロービス経営大学院修了。
著書「人生の武器を手に入れよう!働く私たちの育休戦略」。
●音声メディアVOICYで「今日のワタシに効く両立サプリ」配信中 https://voicy.jp/channel/1240
●アクティブ・ブック・ダイアローグ®認定ファシリテーター



研修に関するお問い合わせ

株式会社NOKIOO法人研修サービスWebサイトにて、資料ダウンロードやお問い合わせがいただけます。


参考書籍について

バリューサイクル・マネジメント ~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方

バリューサイクル・マネジメント ~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方

私たちの働き方は本当によくなったのか?
DX、SDGs、イノベ―ション、ダイバーシティ、女性活躍推進、エンゲージメント、エンプロイアビリティ……個々のキーワードや施策が自己目的化、「仕事ごっこ」化していないか?新しい時代へアップデートしていくために本当になすべきことを、累計25万部・問題地図シリーズの生みの親が集大成。一企業だけ、一部門だけ、一個人だけの努力では成し遂げられない価値創造へ踏み出すための、変革の教科書。

関連記事

TOP