【対談】育休をスキルアップの機会に。個人と組織をアップデートする育休戦略 | 中編

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「圧倒的な時間不足」を成長に変えるスキルとその身につけ方

荒木:前回、育休明けの仕事でつまづく要因の1つに、「圧倒的な時間不足」を挙げました。自由に使えていたはずの時間がない。それはまるで毎月のお小遣いを1万円から2,000円に一気に減らされるようなもので、周りがうらやましいし、仕事の成果が上がりづらくて辛いのだと例え話をしましたね。

小田木:そうですね。極端な言い方をすれば、時間が無限ではなかったことに気付いた、といいますか。そこから、仕事のやり方のシフトが求められます。残業もできず、仕事に使える時間が減る中で、これまでと同じ成果を上げるには限られた時間で成果を出す仕事のやり方に変えていかなければいけません。そのシフトが私はうまくできなくて、痛い思いをしながら仕事のやり方を変えていったタイプでした。だからこそ、今、振り返って思うのは、シフト後に習得した働き方は再現性のあるノウハウなのに、どうしてもっとも必要なタイミングで学べなかったんだろうということです。このことが、育休を取得中の女性向けオンラインスクール「育休スクラ」の事業を立ち上げるきっかけになりました。

育休スクラでは最短3カ月、最大6カ月にて、復職後に必要なスキルや知識が学べる。仲間との対話やワークを通じた「アクティブ・ラーニング」で主体的に学びを習得できるスタイル。

荒木:「圧倒的な時間不足」の中で求められるスキルには2つあって、1つは個人の問題解決能力を徹底的に高めること。そしてもう1は、他人の力を頼るスキルです。今まで100時間でこなしていた仕事を、今度は60時間でやらないといけない、といった状況ですからね。まず、自分自身の仕事効率を高めなければいけません。そのとき時間の使い方がうまい人はどうするかというと、仮説を立てるのです。たとえば、目の前にボタンが10個あり、その中から音の鳴るボタンを1つだけ見つけなければいけないとします。このとき、1から10まですべてのボタンを1つずつ押してみるのが、仮説のないやり方です。

小田木:時間が無限にあると思っている間は、そのやり方をしてしまうかもしれません。

荒木:そうですね。一方、仮説を立てられる人は、いろんな知見を生かします。ある人は、7番に指紋がたくさんついているから7を鳴らしてみようと思うかもしれません。また、人間が反応しやすい数字のボタンから押してみようと思う人もいるでしょう。このように、時間の使い方がうまい人は仮説を立てています。何か課題を与えられたときに、「このポイントはここかもしれない」と見積もってから事にあたるのです。そうすると仕事にかかる時間が短縮されます。

小田木:おっしゃる通りですね。他人を頼る力についてはいかがですか?

荒木:わかりやすいのは、知見のありそうな人に聞くことです。先ほどの音の鳴るボタンの例でいうと、「過去の経験上、もっとも可能性の高いのは何番ですか?」と上司を頼るのがそうです。手の空いている人たちに集まってもらい、1から10までのボタンを一斉に押してみるのも良いかもしれません。仕事を自分で抱えすぎないようにするのは大切なことですね。

小田木:時間が無限にあると思っていると、仮説を立てるのがおそろかになり、自分1人の力で仕事をやりきる方向に行きやすいかもしれません。それこそ、1から10までのボタンを、1つずつ全部押してみるような。

荒木:もし、仕事のプロセスが評価されない環境にいれば、なおさらですよね。また、仮説の立て方を教えてくれる上司に恵まれたら幸運ですが、そういう職場はなかなか少ないのが現状でしょう。ある意味で「時間は無限にある」と思い込んでいる上司だったら、「もっと速く押してくれ!」「両手で押せば早く終わるぞ!」といった、短絡的な指導をするかもしれません。結局、10個すべてのボタンを押すことには変わりなく、時間を使って成果を出す仕事のやり方から抜け出せませんね。

小田木:今までは1人で仕事を抱えがちだった人が、他人を頼れるようになるためには、どうしたらいいでしょう。

荒木:サードプレイスを持つ必要性があると思います。育休中という同じステージに立っていて、似たような課題意識を持っている人たちの輪に加わることです。そのことは、育休中の悩みを1人で抱えて、孤立化しないためにも大事だと思います。

小田木:本を読んだり、無料のコンテンツでも学べたりすると思いますが、コミュニティに入っていくことが大切だという意図はどんなところにありますか。

荒木:そうですね、「越境学習」という言葉が最近あるように、組織の垣根を超えた人たちと学び合うというのがキーポイントだと思います。同じ会社の人同士では、ものの見方が固定化されてしまっている可能性が高いためです。課題の捉え方も、解決策も一辺倒になりやすく、それは言語形態に表れます。前提となる説明を飛ばして、社内で当たり前に使っている用語や会話の流れがどこにでもあるはずです。その言語体系から外に出ることこそ、大切なのです。たとえば、「はじめまして小田木さん。ところで、NOKIOOってどんな仕事をしているんですか?」「育休スクラってなんですか?」と、会社やサービスについて聞かれ、相手に分かりやすく説明する場面が増えます。さらに「どうして女性活躍が必要なんですか?」「そもそも仕事って続けなければいけませんか?」というように、自分にとっては当たり前だと思っていたことに、質問のメスが入っていきます。

小田木:なるほど、そもそもの前提を聞かれるのですね!

荒木:質問された側は、「そんな前提から説明しなければ、このサービスの価値って伝わらないのか」と思うかもしれません。ですが、いざ聞かれるとうまく説明できなかったりしますし、自分では当たり前だと思っていたけれどユーザーにとっては違ったりすることがあります。それに気付くのは、とても大事なことです。

小田木:言語形態の異なる相手だからこそ、今まで自分が考えてもみなかった質問を投げかけてもらえるということですね。その1つひとつに答える中で、自分がしていることの価値や自分の考え方をアップデートしていけるのが、越境学習の価値なのですね。ここで育休の話に戻ると、組織の外で学ぶには、育休中の時間が絶好のチャンスになるかもしれません。現場の仕事から離れるまとまった時間が生まれますし、職場復帰後に必要なスキルを考え直すタイミングだからです。越境学習することで、自分の仕事やキャリアを客観的に見つめ直す機会を作れるといいですね。

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