2021年7月27日、NOKIOOはオンラインにて「90分腹落ちセミナー 女性管理職比率目標を達成するための本当に効くアクションプラン~KPI設計と母集団形成の具体的な着眼点とは~」を開催しました。 女性管理職比率の目標を掲げる企業が増える中、具体的なアクションプランをどんな風に作ればいいか分からないという課題に対し、女性の管理職登用を進めるためのKPI設計手法、女性管理職母集団を形成するためのアプローチ、KPIを達成する上で陥りがちなトラップと対策をご紹介いたします。
目次
小田木朝子(以下、小田木):本日のテーマは、女性管理職比率目標を達成するための本当に効くアクションプランに、 KPI 設計と母集団形成の具体的な着眼点について紐解いていきたいと思います。
「アクションプランをどう描くか」まずはここから目線合わせをさせていただきたいと思います。適切なアクションプランとは、すなわち適切な現状把握にあります。NOKIOOが企業様のお手伝いをさせていただく際に、現状把握にまず力を入れて取り組みます。 まず、管理職登用までのプロセスを、シンプルに分解してみましょう。
管理職登用までのプロセス
小田木:新しい管理職が組織の中に生まれるまでに、どんなプロセスがありますか?どこから母集団としていますか?
管理職の母集団として入り口にいる人、そして新しく誕生した管理職といった位置づけにおいて、キャリアステップを踏んでいくにあたって、どういった具体的なプロセスを経て、新任管理職誕生となっているかをまず把握しましょう。 具体的に、このプロセスを設計したケースを見ていきたいと思います。
小田木:登用候補者数の母集団を、5等級以上かつ高評価者数・係長職数とした場合、実際に登用対象者が絞り込まれたり、最終的にこの登用対象者数から新規で登用される管理職数が生まれてくる。目標が女性管理職比率であれば、後に女性管理職とつく形になります。おそらく、男女関係なく同様のプロセスというという企業が多いと思いますので、性別に関わらず管理職全般のプロセスとして設定していきます。
A社のケースから見ていきます。
登用の候補者数を、5等級以上かつその中で高評価を受けている人の数としています。管理職の登用候補になる段階で、一定の等級以上という 線引きがあり、かつ管理職試験を受けるにあたって一定以上の評価を受けている、という線引きもあるという設定の仕方です。次に、登用対象者をどこで区切るかと言うと、「5等級以上かつ高評価者数」の中から、管理職試験の受験対象者(ノミネート者)として上がってくるか、最終的にはここから女性管理職の新規の登用者が生まれてくるかを、ステップとしています。
次にB社のケースを見ていきます。
登用の候補者数を測り、直接係長職に就いている数としています。これは、課長以上を管理職と定義しており、課長の一つ下の役職が係長になるため、係長の職にある人の数を登用候補者数としています。登用対象者をどう設計しているかと言うと、係長職にいてかつ管理職になることに同意している人の数を対象者数においています。そこから生み出されるものが、新規の登用者数です。
沢渡あまね(以下、沢渡):「同意数」、ここにポイントがありますね。
小田木:はい。この KPI 設計のポイントの一つは、「同意数」にあります。 まず現状把握で行いたいことは「登用候補者数」「登用対象者数」、この2つのプロセスを見える化することから始まります。そして、この2つのプロセスに、妥当性があってかつ測定可能な対象プロセスが定義されている必要があります。
沢渡:登用候補者として管理職試験を受ける人がどれだけいるのか、管理職を「やりたい」と思える人がどれだけいるのか。この2つのプロセスには、これが正解というものがないため、自分たちの組織に当てはめた活動では、何が妥当で測定可能な対象プロセスかを議論するところからスタートすると良いでしょう。
目標達成ラインと現状のプロセスごとのギャップは何かを知る
小田木:プロセスを見える化すると、プロセスごとに生まれるギャップを更に見える化し、比較することができます。
小田木:最終的な管理職比率や管理職数といった最終ゴール目標があるということは、測定可能なプロセスに分解した場合に、プロセス毎の達成目標を設定することができます。それだけでKPI にはなりますが、この目標達成ラインとプロセスごとに分けた現状を並べて比較することで、現状把握をより正確に洗い出すことができます。
具体例を上げてみましょう。 例えば、現在の女性管理職比率10%とします。これを2030年までに20%にすることが最終ゴール目標です。10%に対して目標20%ですと、ギャップが大きく感じます。最終ゴール目標だけを見ると、適切な打ち手のための検討材料が限られます。
- 女性管理職比率20%という最終ゴール目標を達成するために、新規で必要な管理職数は何人なのか
- (1)を満たすために、何人が受験をすればいいのか
- 何人が何年までに管理職として組織の中にいればいいのか
プロセスごとに分解すると、このようなプロセスに分解をすることが可能です。分解ができると、女性管理職比率を上げるための方向性を探ることができるようになります。
もう一つ、C社のケースで女性管理職比率達成のためのプロセス具体例を見ていきます。
小田木:C社の最終ゴール目標は、女性管理職比率を2020年までに20%にすることです。20%が目標値なのに対し、現状値は12%。8%のギャップを埋めたいわけです。
プロセス1:どこからを管理職の登用候補者数とするのか
小田木:まず、どこから管理職に登用するための母集団とするのかを考えます。設計したのは登用候補者数で、「5等級以上にあり、かつ組織の中で高評価を受けている人の数」としています。その登用候補者数の中で女性比率をどのくらい設ける必要があるのかを数値化していきましょう。
プロセス2:同意を得る必要のある候補者の割合を数値化する
小田木:プロセス1で、登用候補者数の数値目標を設定することができ、その中で女性比率がどの割合で必要なのかを設定しました。本来は、この登用候補者数がそのまま管理職の候補者になるはずですが、最終的に管理職試験を受けて管理職になるかならないかは、本人の受験に対する同意が必要です。そのため、プロセス2では同意を得る必要のある比率を数値化します。
プロセス3:管理職試験の受験者から、合格者となる割合を決める
小田木:つぎに、管理職試験を受験した中で、合格者数を何人生み出せばいいかを設計します。これは男性と女性それぞれで比率を算出していきましょう。
このプロセス1〜3を達成した結果として、今いる管理職と新任の管理職の合計数が全体としての20%を埋めるだけの数になることを設計しています。
ギャップを比較するには、絶対数で比較する方法と比率で比較する方法があります。NOKIOOでは、比率にして比較してみることで、見えてくる課題やフォーカスポイントを洗い出す方法を推奨しています。 このプロセスを設計することで、注目すべきギャップを見つけ、目標達成のために組織の中でボトルネックになっている点や、力を入れるべきポイントがどこかという、景色合わせをすることが重要です。
小田木:プロセス2で、登用候補者数の中から同意を得た比率を設計しています。結局のところ、同意をしていないと、登用したとしても成果を出すことは難しい。この同意の有無をプロセスに入れていくことで、定量的に測定することができ、ギャップを見える化することができる。これが大切なポイントです。低いから悪い、高いから良いというよりも、冷静にギャップを洗い出すっていうところが目的になります。
プロセス3で、管理職試験の受験者から、どのくらいの合格者を生み出していくかを設計しています。C社のケースでは、合格率については男女で差がないため、試験を受ければ公正に評価がされる土壌があるといえそうです。
沢渡:プロセス1がよく機能しているとも言えそうです。評価の仕方が適正なため、一定の水準の目標通りの合格を見込むことができます。
ボトルネックを発見し、力点ポイントに照準を合わせる
小田木:これまでに、ギャップの比較をしてきました。次は、その中からボトルネックを定め、何から解決すべきなのか、プランを立てていきます。
ギャップ A〜Bの中で、「我々の組織は、プロセス1よりも手前のプロセスに課題がある」と感じる方もいるのではないでしょうか。ここではギャップA〜Bにプラスし、それ以前のプロセスに課題があるケースに分解をして話をしていきます。
小田木:ギャップ A〜Bと、それ以前の課題を言語化しています。
ギャップAは、高評価者の男女比率に課題があるケース
ギャップBは、管理職になることへの同意比率に課題があるケース
そのプロセス以前に課題がある場合は、一定等級以上の絶対数に課題があるケース と分類ができます。
▼そのプロセス以前:一定等級以上の絶対数に課題があるケース
候補者が足りないけれども、管理職の母集団と呼ぶに必要なスキルや経験を持った候補者が足りない
▼ギャップA:高評価者の男女比率に課題があるケース
スキル経験があって、かつ組織内で評価されている候補者が足りない
▼ギャップB:管理職になることへの同意比率に課題があるケース
スキルもある、組織内で評価もされている、ただし同意がない
「スキルを持った候補者が足りない」といい前提のもと、あなたの組織においてはどこがボトルネックか、を選択していく必要があります。
次に、要因を深堀りしていきたいと思います。
ボトルネック1:一定等級以上の絶対数に課題があるケース
沢渡:この人を、そろろマネージャーと思える人がいない、という状況ではないでしょうか。
女性にマネージメント経験をさせていないというのはよくある話です。スキルに課題があるというよりも、機会提供や育成の過程で差がついた結果、スキルや経験値を持った候補者の募集団が増えないという課題感です。 もう一つ考えられるのは、マネージャーの定義が古い可能性があるということ。スーパープレイのできる人をマネージャーやマネージメントとして求めているため、 今いる人材が活躍できないず、結果組織の機能不全に陥っているケースです。
小田木:まさに2つ目のポイントであげていただいた、マネージメントの定義を変えていくということとも繋がります。合意形成やアサインを変えていくことによって、機会提供になり育成にもなっていくのではないでしょうか。
次に、ギャップ A・B について見ていきたいましょう。
ボトルネック2:高評価者の男女比率に課題があるケース、管理職になることへの同意比率に課題があるケース
小田木:女性管理職が増えない問題を、管理職側の課題と、登用される当事者の課題に分けて考えていきたいと思います。「ノミネート」というのは、より上位の役割にアサインしていく段階のノミネートもそうですし、マネージャーになっていくっていうプロセスに評価をしながら後押ししていく段階の直前ノミネートも含めた総称です。
管理職側の課題について、バイヤス・経験・知識スキルに分解することができます。 バイアスというのは、アンコンシャスバイアスのことです。
- 女性にはマネジメント無理じゃないか
- 今子育て中で、無理してないか
- 女性本人が望まないんだよ
- マネジメントに関しては、男性社員の方が優秀
- やる気のある人を登用するべき
といった、思い込み・暗黙の前提を「バイアス」としました。
バイアスは、誰しも過去の経験や生きてきた環境の中で培っていくものです。それ自体を否定することはできません。しかし、
- 管理職になりたがらない女性部下を何人も見てきた
- 女性社員を押そうと思ったけれども、辞退された
- 自分が女性管理職と仕事をした経験がない
- 女性部下を持った経験が少なくて配慮しなければいけない
- 意識的に強いコミュニケーションを取ってしまう
といった、経験によって裏打ちされてより強固なバイアスになっていくケースは、多々あるのではないでしょうか。
知識スキルについては、技術面で課題があるかもしれないということです。
- 女性が抱えがちなキャリアの課題を知らない
- インポスター症候群(自分に能力がないと思い込んでしまう心理的傾向)
- 部下の動機付け方法が古い、知らない
- 能力やポテンシャルはあるが、本人に意欲がないケースにおいて、推薦の仕方を知らない
こういった観点を含めて、知識スキルが足りないとしています。
新たな知識とスキルが必要になってきた時代で、新たな知識とスキルががまだ手に入っていない、提供されていないという状況なのではないでしょうか。
沢渡:管理職を一方的に否定するのではなく、20年〜30年前の常識のままアップデートされないから、そのやり方しか知らないあるいは考える観点がないということですね。ですから、正しくアップデートしていく必要があります。
小田木:次に、登用される当事者の課題です。 管理職に推薦しても辞退したり、推薦されないように自分から働きかけるというケースが、現場では多発しているのではないかなと思います。マネージャーになることに関心があるかというアンケートを取ったとしても、「同意している」「関心がある」という回答が20%を超える状況を見たことがありません。この回答の裏には、どういった課題があるのでしょうか。
大きく分けると、理解がない・魅力がない・自信がない・環境がない、という4つに分類することができます。
沢渡:経験がないし、スキルがないから、自信がないと思ってしまう。マネージャーである上司が大変そう、雰囲気の問題や、イメージするマネージャー象が古いすぎるのかもしれない。時間に制限なく働く事が可能な仕組みがない等の問題もあるかもしれません。
小田木:環境がないという課題は、本当の理由ではありません。理解がない・魅力がない・自信がない理由をオブラートに包むためには、この環境がない点が挙げやすい要因です。 課題が分解できて、組織にとってより優先度が高かったり、インパクトの大きい課題はどこかを協議したり、アイデアを出していけると良いでしょう。
まとめ
小田木:ボトルネックの要因分解から、打ち手の考察というところで、様々な要因分解とそこに対して打ち手を議論させていただきました。
小田木:結局、どの段階の話だったかと言うと、女性管理職比率達成における現状の重要テーマは、管理職を定着させるまでの第一段階です。第一段階が何かと言うと、母集団形成期にあたります。社内に女性リーダーや、女性マネジメントを増やしていく中で、十分な母集団の数が育成されて活動している状態をいかに組織の中に作っていくのか、これが第一段階における重要ポイントです。第二段階では、対象者が登用され、かつ登用実績の数と効率面できちんと成果が出てきている状態です。第三段階は、KPI や最終ゴール目標の達成の先にもなりますが、管理職としての定着期です。管理職として定着もしているし、かつ組織の中できちんと評価されている段階を指します。
小田木:本日は第一段階の母集団形成にフォーカスをし、プロセスに分けて現状とのギャップを洗い出し、現状把握をしていくという方法を紹介しました。
結局のところ「スキルがある」「評価がされている」「管理職になる同意がある」この三つが揃っている人材のことを母集団と呼んでいい対象と言えるわけです。それに見合うスキルや経験があり、組織の中で評価されており、かつ本人もステップアップしていくことに対して同意している。この3つのをどうやって揃えていくのか、欠けている要素は何で、その欠けているピースをどうやって埋めていくのかという点を考えていくと、最終ゴール目標を達成するために十分な母集団数は、何歳で、どのぐらい欲しいのかを算出することができるようになります。
女性管理職対象となりうる当事者の問題だけではなく、組織全体で取り組むテーマにしていきましょう。
<講師> 沢渡 あまね
あまねキャリア株式会社 代表取締役CEO/なないろのはな 取締役/株式会社NOKIOO 顧問
日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。情報システム部門、ネットワークソリューション事業部門、広報部門などを経験。現在は企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・アドバイザー・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネージャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。これまで300を超える企業・自治体・官公庁で、働き方改革、マネジメント変革、組織改革の支援および経営層・管理職・中堅人材の育成も行う。これまで指導した受講生は4,000名以上。 著書「バリューサイクル・マネジメント」「職場の問題地図」「マネージャーの問題地図」「職場の科学」ほか多数。
<講師> 小田木 朝子
株式会社NOKIOO 取締役/経営学修士
ウェブマーケティングの法人営業などを経て、NOKIOO創業メンバーとして参画。教育研修事業担当役員。2011年、中小企業診断士資格取得。2013年、自身の経験を活かし女性の社会参画支援事業『ON-MOプロジェクト』を立ち上げ、会員6,000名を超えるネットワークを育成。2016年12月『一般社団法人 育勉普及協会』を設立。2020年、オンライン教育サービス『育休スクラ』を立ち上げ、経験学習による人材開発・オンラインを活用したキャリア開発とアクティブラーニングを法人・個人向けに提供。グロービス経営大学院修了。
著書「人生の武器を手に入れよう!働く私たちの育休戦略」。
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