男性育休から考える”組織と個人の成長” ~今、人事担当者がおさえたい育休マネジメントの発想~[前編]

トピック&テーマ

2021年10月21日、NOKIOOはオンラインにて「90分腹落ちセミナー 男性育休から考える”組織と個人の成長” ~今、人事担当者がおさえたい育休マネジメントの発想~」を開催しました。
育児・介護休業法が改正され、2022年4月より、男性の育休取得推進に取り組むことが企業に義務付けられます。育休を業務遂行上のリスク、当事者のキャリアの壁にしないために、組織はどう戦略的な介入をしていく必要があるのでしょうか。ビジネスメディアの編集長を務めながら育休を取得された経験を持つ、データのじかん編集長兼メディア企画室室長 野島氏をゲストに迎え、組織と個人を成長させる「育休マネジメント」について考えます。

目次

  1. ケースから考える”組織と個人の成長”につながる育休取得のカタチ
  2. 育休取得により、仕事のパフォーマンスは上がるのか?

小田木 朝子(以下、小田木):本日のテーマは「男性育休から考える個人と組織の成長」です。実際に育休を取得した、ゲスト野島さんの事例を具体的なテーマの入り口とし、育休を活かす要因を考えながら、再現性のある組織的アプローチのヒントについて議論をしていきます。
ポイントは3つです。

  • 制度や法改正の説明ではない切り口で考える
  • 男性育休の取得促進を“組織の機会”につなげるという発想をもつ
  • 組織的アプローチとして実践できること

ケースから考える”組織と個人の成長”につながる育休取得のカタチ

小田木:それではさっそく野島さんのケースを紐解いていきましょう。

ケースから考える”組織と個人の成長”につながる育休取得のカタチ


野島 光太郎(以下、野島):気合・根性・長時間労働という必殺技を駆使し、仕事をしてきましたが、第二子出産時、4ヶ月の育休を取得しました。

小田木:そんな野島さんが、なぜ育休を取得しようと思ったのでしょうか?

野島:第一子出産時、当時の私はまさしくワーカホリック。妻の妊娠中、長期海外出張に自ら手を挙げて行くほどで、育休に見向きもしていませんでした。出産時も妻と一緒にいるようなこともなく任せっきりという状態でしたが、第一子が生まれて最初の3ヶ月という親子にとって大変な時期に、子どもにも妻にもあまり接することができませんでした。そのとき、現在の環境がとても大変であるということを妻が辛そうに話をしてきたことがあります。合わせて、働きたいということも言いました。もともと妻も仕事をしており、産休から育休まで取得している最中だったのですが、育休を取得できる環境にあるのであれば、まずは育休を取得してから復職をすれば良いと思っていたので、とても驚いたのです。
子育てだけでなく、社会とのつながりも欲しいし、自分自身も社会に関わっていきたいということを、まざまざと聞かされました。そういった経緯から、もし将来第二子を出産することがあるならば、妻に寄り添う環境づくりをしていこうと覚悟を決めました。

小田木:次に同じ機会があれば、育休を取るぞという覚悟があったのですね。一方で、ワーカホリックというほど仕事をされてきたわけですが、決めていたとはいえ、仕事を離れることに不安はありませんでしたか。

野島:もちろん不安はありました。仕事が好きだと思いこんでいたこともあって、休日もパソコンやスマートフォンを触っていたので、離れたらどうなるのか想像もできないまま不安に感じていました。育休を取得しようと決めたので、その不安をどう潰していくかが、プロセスとしてのスタートでした。

小田木:想像がつかないので仕事を離れないのではなく、離れることを決定事項にした上で、どうやって生まれてくる不安に向き合っていくのかを考えていたということですね。それが育休を取っていくというプロセスになった。

野島:そうですね。もちろん私自身も不安なのですが、チームや上司も不安なわけです。会社の中で男性社員が長期で育休を取得した実績がありませんでした。1年の育休を取得すると言い出した私に対して、会社も前向きで否定はしませんでした。ただ、これだけ長期のケースはあまりないというスタンスです。当然会社は不安だったのですが、チームや上司が、長期で取得をしたら良いと暖かく背中を押してくれたこともあり、まずはその不安を一つずつ潰していこうとなりました。組織の中に、制度はあったが、前例があったわけではないという点が一番の不安だったというわけです。

育休取得における不安解消のアクション1:育休計画を早く伝える

小田木:不安という抽象的なものを、自分自身の不安、主力の社員が長期に渡って抜けると意味でチームや上司の不安、男性社員が育休を取得する経験が組織に無いという会社の不安、という3 つの分解がありました。不安解消のために、具体的にどのような手を打っていったのでしょうか。

野島:まず一番初めに手を打ったことが、とにかく早く人事に相談するということでした。一ヶ月前に相談したとしても、人材のアサインも難しい。そのため、妊娠7ヶ月くらいの時期で、すでに相談をしようと決めていました。早ければ早いほど備えられると思ったのです。

沢渡 あまね(以下、沢渡):ここに一つの変化がありますね。これまでは産休〜育休を取得する女性本人が職場での計画を立てていくものでしたが、配偶者も同じく自分が働く組織の中で育休取得計画を立てて行く必要がある。合わせて、組織もそういった状況を受け止めていく必要があります。

小田木:もう一つ、世の中的に男性育休の法改正というニュースの中で、男性の育休取得が難しい理由として、直前にならないと把握ができないといった意見も必ず上げられますよね。でもそれは、思い込みと言えそうです。

野島:そうですね、妻の出産を、パートナーである夫が直前にならないと把握できないという状況は想定しにくいです。本人も直前まで決めかねているでしょうし、会社も男性の育休取得計画を収集できないという課題がありそうです。

育休取得における不安解消のアクション2:仕事の構造分解をする

野島:早く伝えることで、自分のスタンスを周囲にアピールすることができます。じゃあどうすんだ、というコミュニケーションのスタートが切れるわけです。合わせて、この仕事のときはどうケアをするのか、どうアサインするのか、自身の仕事の構造分解をしていきました。
VUCA時代と言われる中において、出産や育休は時期のわかる確実性の高いものです。給付金が出たり、会社として体制を考えられたりするという意味においては、育休は解像度の高い取り組みだと思います。どういった対策をしたら良いのかを考え、まずは業務の棚卸をするという手が打てるわけですね。
本当に必要な仕事や自身が本当にやりたい仕事、復帰した後も継続したい仕事なのか、もっと得意な人がいて任せるべき仕事なのか、そういった整理をする場が生まれます。整理をするだけでなく、チームや上司に共有をし、引き継ぎをするといった場も生まれるため、まず自身の仕事を構造分解していくことは必然でした。

小田木:固定化された役割や仕事もありますし、チームの皆も短期的に忙しいという中で、その時間を捻出する難しさがあることが実情だと思います。育休を取得すると決めたという前提に基づいて、仕事を構造分解し、仕分け、整理をする。チームが困らないように、そして自身もこの機会に仕事を仕分けるという取り組みが、チーム全体で進んで行ったことが、不安解消の方法でもあり、職場を離れるための準備でもあったわけですね。

育休取得後の変化や効果:仕事と育児を両立するうえでのポジティブな変化

小田木:育休を取得する前の不安解消という観点でお話をいただきましたが、育休取得後の変化や効果についてもお聞かせください。

野島:変化として、まずは仕事がすごくしたくなりました。育休期間中にエネルギーをもらえたので、復帰したら頑張ってやろう、これを立ち上げてやろうといったことを沢山考えましたし、仕事が本当に好きだということを改めて知りました。また、仕事だけでなく、育児に携わることや育児の楽しみが増えた面もあります。今まで見てこなかったところを楽しめるようになった。大きな意識の変化を実感しています。ポジティブな変化しかありません。

小田木:ポジティブな変化しかない。幸せ倍増とはなかなか強烈なスローガンですね。仕事以外の楽しさがあった、見つかった、仕事はさらに楽しくなった。そういう手応えを想像していなかったが得られたということでしょうか。

野島:全く想像していませんでした。ただ、仕事と家庭はパッケージなのだと思います。仕事と家庭が繋がってパフォーマンスが出てくるということを改めて感じていますが、会社にとってどうかというのは本当に難しい問題です。会社として制度があるけれども、育休を取得してきた人材がたくさんいたわけではありませんし、前例があったわけでもありません。育休取得を通じて、会社も様々な工夫をし、考えて、調整してくれました。会社側からすれば、負担になった取り組みもあったと思いますが、個人的にはすごくポジティブな影響しかないとい言えるのではないでしょうか。

小田木:組織にとってどうであったかという疑問も含めながらお話しいただきましたが、まさに、ここから踏み込んで考えたいテーマとなります。

育休取得により、仕事のパフォーマンスは上がるのか?

小田木:仕事のパフォーマンスそのものは、育休取得前、取得後で、どのような変化があったのでしょうか?

野島氏のケースは、組織と個人の成長をどう実現したか?


野島:仕事のパフォーマンスは上がっています。なぜかと言うと、育休取得前に実施している業務を分解し改善したからです。具体的にお話をさせていただくと、メディア運営や、ブランディング活動をやっているので、必然的に外部の方とコミュニケーションをすることが多くあります。メディアであれば執筆していただいたり、デザインであったり、サーバーだったり、ウェブサイトに至るまで、様々な業務がある中で、同じ組織内の社員もいれば、自分もいる。社員がやる仕事もあれば、外部の方に依頼をする仕事もある。そういった点で整理をしていくと、この人に依存している仕事とそうでない仕事が二極化しているケースが多いです。
ライティングを例に上げると、 IT・ DX が詳しいライターで記事のライティングができることと、請求処理や発注書の制作のようなドキュメント制作ができるというスキルは、異なるスキルです。求めているスキルによって、他のチームで代替したり、外部に委託したりすることができますし、社員の時間給で考えると外部に委託をした方がリーズナブルな場合も、プロの場合は多いわけです。これらは、私が持っていた雑多な作業を他のメンバーに引き継ぐタイミングで、他のメンバーからフィードバックが入ります。プロフェッショナルとして業務にあたるのだから、本来であれば私がやるよりは、得意な人にバトンパスをするべきだったという視点です。業務の整理ができ、取得期間中に業務そのものが回っていたので、復帰後は本来注力すべき業務に注力できたと言えます。

沢渡:変化というピンチを俯瞰して向き合うことによって、強みに変えていく。まさしく育休マネジメントにおける本質ではないでしょうか。業務改善の最大のハードルは、自分の仕事が無くなってしまうかもしれない心理的なハードルです。育休は、個人から業務を否応なく引き剥がすタイミング。この機会を上手く活用し、業務改善を進めて欲しいですね。

野島:確かに、育休というタイミングだったから取れた手法だったかもしれません。育休というタイミングであったからこそ、上司やチームが応援することができたでしょうし、絶対に取り組まないといけない論調も生まれたように思います。

沢渡:日常の業務の中で「この仕事無駄ではありませんか」とは言いにくいですよね。育休のような、組織全体で向き合わなければならない状況は、まさしくチャンスではないでしょうか。

小田木:組織が、育休マネジメントに本気で取り組むうえで、重要な考え方ですね。個人にとっては良いことであっても、組織として現状を考えると難しいという論調になりがちなことを、個人にとっても組織にとってもプラス要素しかないという方向に向ける。その根拠を、個人の幸福感はもちろん、業務的な付加価値増大や生産性向上といった観点から考えることが必要不可欠です。

沢渡:そして、育休取得前から会社とコミュニケーションを取っておくことが、やはり重要ですね。

野島:男性育休というキーワードがこんなに話題に上がったことは無いでしょう。今まで名付けられなかったところに“男性育休”と名付けられ、法改正によって定義されたわけなので、ようやく男性育休に向き合える土壌ができた。
この現状は、まさしくチャンスです。


野島 光太郎

<講師> 野島 光太郎
ウイングアーク1st株式会社/データのじかん編集長 兼 メディア企画室 室長

静岡県浜松市生まれ。名古屋大学経済学部卒業後、広告代理店にてデザイナー・プランナーとして高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。大学院にてWell-Being、知識経営を基軸にサービスデザインに関する研究中。

ウイングアーク1st株式会社
データのじかん – データで越境者に寄り添うメディア


沢渡あまね

<講師> 沢渡 あまね
あまねキャリア株式会社 代表取締役CEO/なないろのはな 取締役/株式会社NOKIOO 顧問

日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。情報システム部門、ネットワークソリューション事業部門、広報部門などを経験。現在は企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・アドバイザー・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネージャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。これまで300を超える企業・自治体・官公庁で、働き方改革、マネジメント変革、組織改革の支援および経営層・管理職・中堅人材の育成も行う。これまで指導した受講生は4,000名以上。 著書「バリューサイクル・マネジメント」「職場の問題地図」「マネージャーの問題地図」「職場の科学」ほか多数。


株式会社NOKIOO 取締役 小田木朝子

<講師> 小田木 朝子
株式会社NOKIOO 取締役/経営学修士

ウェブマーケティングの法人営業などを経て、NOKIOO創業メンバーとして参画。教育研修事業担当役員。2011年、中小企業診断士資格取得。2013年、自身の経験を活かし女性の社会参画支援事業『ON-MOプロジェクト』を立ち上げ、会員6,000名を超えるネットワークを育成。2016年12月『一般社団法人 育勉普及協会』を設立。2020年、オンライン教育サービス『育休スクラ』を立ち上げ、経験学習による人材開発・オンラインを活用したキャリア開発とアクティブラーニングを法人・個人向けに提供。グロービス経営大学院修了。
著書「人生の武器を手に入れよう!働く私たちの育休戦略」。
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●アクティブ・ブック・ダイアローグ®認定ファシリテーター


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参考書籍について

バリューサイクル・マネジメント ~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方

バリューサイクル・マネジメント ~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方

私たちの働き方は本当によくなったのか?
DX、SDGs、イノベ―ション、ダイバーシティ、女性活躍推進、エンゲージメント、エンプロイアビリティ……個々のキーワードや施策が自己目的化、「仕事ごっこ」化していないか?新しい時代へアップデートしていくために本当になすべきことを、累計25万部・問題地図シリーズの生みの親が集大成。一企業だけ、一部門だけ、一個人だけの努力では成し遂げられない価値創造へ踏み出すための、変革の教科書。

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