2021年11月11日、NOKIOOはオンラインにて「90分腹落ちセミナー 組織ぐるみで取り組む“新時代のコミュニケーション・マネジメント”~多様な人材が成果を上げるチームをつくる組織スキルと仕組み~」を開催しました。
リモートワークやDXが急速に加速する中、オフィスに集まらなくても効率的に働けることに多くの組織も人も気付き始めています。
一方で、慣れたコミュニケーションスタイルや組織運営がうまくいかず、モヤモヤを抱える人たちも少なくありません。働き方そのものや個人のスキルのせいにしがちなこれらの問題は、実はコミュニケーションをデザインすることで前向きに解決していくことができます。今回は、株式会社イトーキの佐々木様をお迎えし、多様な人材が成果を上げる組織・チームづくりを目的に「コミュニケーション・デザイン」について考えます。
目次
小田木 朝子(以下、小田木):本日のテーマは「組織ぐるみで取り組む“新時代のコミュニケーション・マネジメント”」です。“新時代”のというキーワードから、コミュニケーションや関係性の変化を紐解き、課題解決の着眼点を探していきます。
前半は、コミュニケーションに課題感を持っている、根底にある変化や問題は何かという観点から、なぜ今“コミュニケーション・マネジメント”の発想が必要かを考えます。
後半は、問題解決のための着眼点を分解しながら、多様な人材が成果を上げるコミュニケーション・マネジメントの実現について考えます。
ポイントは3つです。
- 漠然とした“コミュニケーション課題”を言語化する試み
- 組織とチームに必要な“コミュニケーション”を定義してみよう
- 組織的アプローチとして実践できる“ヒント”を見つける
「コミュニケーション・マネジメント」をどう捉えるか?
小田木:コミュニケーションだけでなく、“コミュニケーション・マネジメント”が今回のテーマです。コミュニケーション・マネジメントとは何でしょうか?今回は、コミュニケーション・マネジメントについて、このように定義をしています。
コミュニケーション | マネジメント |
チーム及びそのチームの構成メンバーから、最高のパフォーマンスを引き出すための相互作用。 | チームの成果を最大化するために、仕組みと仕掛けで不確実性に向き合い、やりくりすること。 |
小田木:沢渡さんは、様々な企業を見てきたなかで、どんなコミュニケーション課題があると思いますか?
沢渡あまね(以下、沢渡):毎日のようにメディアや企業から問い合わせがきますが、その中から凝縮された課題を挙げていきましょう。
- 他部署とのコミュニケーションが疎かに
- 雑談や相談がしにくい
- 「部長リサイタル」な定例会議
- 沈黙の1on1
- オフィスワーカーとリモートワーカーの「標高温度差」
- 一部の人しか盛り上がらないビジネスチャット
- 新参者が孤立する
- 上司の監視が窮屈
- 出社している人しか評価されない
考えなければならないことは、ここに挙げた課題は、個々のコミュニケーションスキルだけに依存していては解決できない点です。もちろん、コミュニケーションスキルを向上させれば改善できる部分もあります。一方で、仕組みや仕掛けの部分、あるいはコミュニケーションの場の作り方で解決できる部分も大いにあります。マネジメントとデザインで解消できる課題です。コミュニケーションは、個人の気合と根性ではなく、組織における総合格闘技ととらえることができるでしょう。
小田木:総合格闘技というキーワードに、個人の気合と根性に依存しないというメッセージが含まれているわけですね。では、課題の背景にはどのような構造があるでしょうか。
変化するスピードが早く、多様性が増した中で、求められる変化の度合いが大きくなっています。これまで無意識的にやってきた方法でコミュニケーションを取っていても、環境や求められているコミュニケーションの勝ちパターンの変化によってギャップが生じたときに、課題が生まれていきます。
もう少し様々な観点から紐解き、課題のその下にある構造を具体的につかんでいきましょう。
組織のマネジメント・スタイルの変化
沢渡: 書籍「バリューサイクル・マネジメント」でも説明をしているので、各論は書籍をじっくり読んでいただきたいです。
本日のセミナータイトルも”新時代の”と謳っています。 統制型(ピラミッド型)のマネジメントから、オープンに繋がり、主体的に答えを出していくオープン型のマネジメントに変化していかないとVUCAと呼ばれる時代では生き残ることはできません。
中でも、マネジメントについては統制管理型から権限移譲型へ、コミュニケーションについては報連相から雑相(ざっそう)へ変化させなくてはなりません。課題を課題化し、解決策を考えていく必要があります。
また、人材育成や学習スタイルの「勝ちパターン」も変わってきています。個人や組織の中だけでは答えが出せない時代です。いわゆる越境学習、すなわち組織や業種や職種、地域を越えたクロスファンクション、クロスボーダーで繋がり、学び合い、問題や課題を解決していく方法も取り入れていきたいです。
多様な人たちと正解のない問題に向き合う
小田木:このような変化を受けながら、チームで成果を上げ、成果を最大化していく働き方をしなくてはならない我々に求められているコミュニケーションの形はどんなものでしょうか。
沢渡:今までの組織は、同質性の高い人たちが長時間顔合わせて決められたことをこなすモデルでした。これからの時代は、組織の中に答えがなく、過去から答えを見つけにくい時代です。そのため、異質な人達が、それぞれに最適な時間と場所で、過去に答えのないテーマに向き合い、主体的に課題を言語化し共感者を集めながら、解決に向かうコミュニケーションやマネジメントの仕方に変えなければなりません。変化するためには何が必要でしょうか。
小田木:今までどおり仕事をやり続けるためのコミュニケーションだけではなく、今まで出せていない形での成果を出していくためのコミュニケーションとは何か、が欠かせない着眼点ですね。
沢渡:統制型(ピラミッド型)のコミュニケーションが悪いということではありません。新規事業のような新しいテーマに向き合うには、統制型(ピラミッド型)のコミュニケーションだけではうまくない。そのため、オープン型のコミュニケーションを部分的にでも取り入れ、ハイブリットのようなスタイルで課題に向き合っていきましょう。
チーム運営の難易度の上昇
小田木:もう少しチームに寄せて考えてみると、一つ一つのチームにおいても、運営の難易度が格段に上がっている感覚があるのではないでしょうか。
チームを組成 | プロセスを進行 | ゴールを捉える |
・ゴールが決まっていない中でスタートを切らなくてはいけない ・仕事を進めるうちに、ゴールが動いていく | ・経路や選択肢が一つではない ・経験者がおらず、知見がない | ・社内外に、色々な人がいる ・同じ場所で働いていない |
沢渡:もう一つ別の観点を投げ込むと、既に知っているものの領域(既知の領域)に関しては統制型かつ今までのやり方で答え出せるので、効率はいいはずです。組織にとって未経験のもの(未知の領域)に関しては、ゴールを主体的に設定したり、経路を選択したり、ディスカッションをしたり、失敗も許容しながら時間をかけて答えを見出していかなければなりません。
なぜ今“コミュニケーション・マネジメント”の発想が必要なのか?
働き方の観点から考える“コミュニケーション”
小田木:働き方の観点から考える“コミュニケーション”について考えていきましょう。
佐々木 世紀(以下、佐々木):アフターコロナの時代になるにつれ、多くのお客様から「最適な出社率を教えてほしい、コンサルしてほしい」というお話をいただきます。フルリモートで仕事をしていた状態からオフィスに出社できる状態になり、コミュニケーションが滞っているので、出社してほしい・出社をさせたいそんな企業が増えています。しかし、オフィスが縮小されているので、全員が出社すると席が足りません。これこそ答えの無いテーマです。誤解を恐れずに言うと、一般的な最適解や正解であると定義された解はありません。
小田木:株式会社イトーキの経験値から見ているコミュニケーションの難しさの根底にある変化とは一体何があるでしょうか。
佐々木:ワーカーの働き方は一律ではありません。
オフィスワーカー | ミクスドワーカー | フィールドワーカー | 在宅ワーカー |
毎日定時でオフィスに出社して仕事をするワーカー | 自宅とオフィスの両方を利用して仕事をするワーカー | 外出ワークが多く、ほとんどの業務を外出先で処理するワーカー | 一切オフィスに出社せずとも業務上支障がないワーカー |
小田木: 組織で働く人は多様性を極め、選択したり、組み合わせたり、自分で働く場所を選びながら利用しますよね。
佐々木:例えば、在宅ワーカーです。一切オフィスに出社せずとも業務上支障がないものを在宅ワーカーとしますが、育児や介護など、ご家庭の事情で自宅が使えないため出社をすることが本人にとっては好ましいというケースもあります。4つの区分で定義していますが、一つの区分の中でも多様性が生まれています。
佐々木:そして、オフィスも変わり始めています。
これまでは、総務部やファシリティマネジメント部門が「ハコ」というオフィスを設定し、そのオフィスにワーカーが合わせながら働いてきました。あなたは●●部署だから、●●の席に座ってください、こういった考えです。どんなにその環境が悪くても、その「ハコ」から移動してはいけないことが当たり前で、働く場所に自由はありませんでした。
しかし、これからは違います。 「ヒト」が起点となり、最もパフォーマンスが上がるであろう、働く場所・働く時間・働く相手を自身の裁量で選ぶようになります。すなわち、総務部やファシリティマネジメント部門は、ワーカーにとって最適な環境を設定する必要が出てきたと言えます。
これまでの「ハコ」に「ヒト」を集積させるという考え方では、面積や席数、室数などは、集積させる人数によって考えられてきました。これからの時代は「活動」と「時間」をハコに集積させ、どんな活動をどのくらい行い、誰とするのかという観点でオフィスそのものを設計しなくてはなりません。
小田木:ハコに入るヒトの量をマネジメントするのではなく、ハコに入れたい活動を起点とし、活動そのものをマネジメントしていくという方向に変化しています。 ハコそのものが変わっているという点が、コミュニケーションの難しさの根底にある変化ですし、この変化にどう対応していくかが重要な着眼点です。
佐々木:とはいえ、まだまだオフィスに出社させたいという企業や経営者も沢山います。VUCAの時代において出社を共用するのはデリケートな問題です。だからこそ出社したくなるような環境を用意する、選択肢の一つとして提供できるという点が重要です。
佐々木:ABWは「働く場所」ではなく「働き方」の戦略です。働く場所はもちろんですが、時間と相手を選びます。株式会社イトーキでは、10個に分類をしていますが、ほとんどがコミュニケーションを含む活動です。
佐々木:高集中をしたい、誰にも話しかけられたくない・誰にも話さないという分類は別とし、他の分類においては全てがコミュニケーションです。 そのため、働く人が活動に最適な場所を選びます。それに対し、組織は受け入れ支援をしていくという仕組みです。
沢渡:言い方を変えると、組織内外のどこかにいる人と快適にコミュニケーションができる、オフィス環境が求められていそうです。
小田木:ここまでは、なぜ今こんなにコミュニケーションの課題が増えており、課題の背景にはどういった変化や、問題の構図があるのかを、様々な観点から紐解いていきました。
目に見えている課題のもう一つ後ろ側に何があるのかという観点です。 環境が激変し多様性が増した。そんな中で組織に求められているマネジメント・スタイルに変化や混在が現れています。
沢渡:これまでもダイバーシティー&インクルージョンや、生産性、エンゲージメント、人材育成など、様々なマネジメント・キーワードを立体的に繋げてきました。
小田木:チームで成果を出すことに関しても難易度は上がっています。また、これまではオフィスに出社することが前提であったため、オフィスそのものへ問題意識が向くことはありませんでした。働き方の多様性が増した時に、オフィスに求められる機能や変化が浮き彫りとなり、会社としてどのような選択肢を提示するのか、選択肢を設けることでパフォーマンスを上げる戦略を取るのか、こんな難しさが根底にありました。
<講師> 佐々木 世紀
株式会社イトーキ 商品開発本部 ソリューション開発部 ソリューション開発室
新聞社にて自社メディアの製作とその運用、企業や自治体のマーケティング活動全般(調査、企画、広報PR、宣伝、プロモーション)の支援を担当。
その後、社内の新規事業としてD&Iをテーマにした法人向けの研修、教育事業を立ち上げる。
働く人のパフォーマンス向上をワークプレイスや働き方からもサポートしたいという想いから2019年に株式会社イトーキ入社。
現在は組織と個人のパフォーマンスを可視化するサーベイシステム「Performance Trail」のマーケティング、働き手視点で働き方改革を改革する異業種コンソーシアム「FROM PLAYERS」プロジェクトの推進を行っている。
国家資格キャリアコンサルタント。
●株式会社イトーキ
<講師> 沢渡 あまね
あまねキャリア株式会社 代表取締役CEO/なないろのはな 取締役/株式会社NOKIOO 顧問
日産自動車、NTTデータ(オフィスソリューション統括部)、大手製薬会社などを経て、2014年秋より現業。情報システム部門、ネットワークソリューション事業部門、広報部門などを経験。現在は企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・アドバイザー・執筆活動などを行っている。NTTデータでは、ITサービスマネージャーとして社内外のサービスデスクやヘルプデスクの立ち上げ・運用・改善やビジネスプロセスアウトソーシングも手がける。これまで300を超える企業・自治体・官公庁で、働き方改革、マネジメント変革、組織改革の支援および経営層・管理職・中堅人材の育成も行う。これまで指導した受講生は4,000名以上。 著書「バリューサイクル・マネジメント」「職場の問題地図」「マネージャーの問題地図」「職場の科学」ほか多数。
<講師> 小田木 朝子
株式会社NOKIOO 取締役/経営学修士
ウェブマーケティングの法人営業などを経て、NOKIOO創業メンバーとして参画。教育研修事業担当役員。2011年、中小企業診断士資格取得。2013年、自身の経験を活かし女性の社会参画支援事業『ON-MOプロジェクト』を立ち上げ、会員6,000名を超えるネットワークを育成。2016年12月『一般社団法人 育勉普及協会』を設立。2020年、オンライン教育サービス『育休スクラ』を立ち上げ、経験学習による人材開発・オンラインを活用したキャリア開発とアクティブラーニングを法人・個人向けに提供。グロービス経営大学院修了。
著書「人生の武器を手に入れよう!働く私たちの育休戦略」。
●音声メディアVOICYで「今日のワタシに効く両立サプリ」配信中 https://voicy.jp/channel/1240
●アクティブ・ブック・ダイアローグ®認定ファシリテーター
研修に関するお問い合わせ
株式会社NOKIOO法人研修サービスWebサイトにて、資料ダウンロードやお問い合わせがいただけます。
参考書籍について
バリューサイクル・マネジメント ~新しい時代へアップデートし続ける仕組みの作り方
私たちの働き方は本当によくなったのか?
DX、SDGs、イノベ―ション、ダイバーシティ、女性活躍推進、エンゲージメント、エンプロイアビリティ……個々のキーワードや施策が自己目的化、「仕事ごっこ」化していないか?新しい時代へアップデートしていくために本当になすべきことを、累計25万部・問題地図シリーズの生みの親が集大成。一企業だけ、一部門だけ、一個人だけの努力では成し遂げられない価値創造へ踏み出すための、変革の教科書。